ある文系の思議録

公共政策大学院→国家公務員3年目です。

仕事で狼になれるか? 森博嗣『つんつんブラザーズ』感想

 はじめに

今回はエッセイ集について書きます。個人的にはすごく好きな作家さんで自宅の本棚のうち2段が森先生の本で埋め尽くされています。

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そもそも自分が大学院に行こうと思ったきっかけの一つは『喜嶋先生の静かな世界』を読んだからなので、その意味でも思い入れの深い作家さんです。

 

この間、たまたま本屋に行ったところ、クリームシリーズの新刊が発売されていたので読んでみました。

 

 

つんつんブラザーズ The cream of the notes 8 (講談社文庫)

つんつんブラザーズ The cream of the notes 8 (講談社文庫)

  • 作者:森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 文庫
 

 

本書は100のテーマからなるエッセイなので、ポイントはまとめきれません。ですので感想のみを書いていきます。

 

 

※以下本の感想です。ネタバレを一部含むものもございますので、内容を知りたくない方は恐れ入りますが他のページをご覧いただければと思います。

 

感想

久しぶりに森先生の本を読みましたが、変わらず面白かったです。考えることについて考えさせられる本でした。

 

まず、書店で見かけたときに思ったのは買って読みたい本なのかということでした。というのもクリームシリーズ第一作からすべて読んでいる私としては最初に受けた衝撃と比べて、最近のものは衝撃を受けるというほどのものではないかなと思っているところがあり、金欠なこともあって興味のあるテーマがなければ購入を見送ろうかとしていました。シリーズ物の宿命ではあると思うのですが、どうしても新作を重ねるにつれて作品の質は少しずつ落ちてくる傾向はあると思います。ただ、ある程度になると固定化されたファンがある程度つき、どんな内容でも購入してくれるため問題はあまりないのでしょう。

 

そんなようなことを考えながら目次を立ち読みした時に目に入ってきた文字が

1「このシリーズは最初のうちは鋭かったのに最近はそうではない」は本当か?

ということで、すぐに購入を決意しました。手持ちの現金はなかったのでクレジットカードを切りました。

 

さて帰宅してから本を読み始め一気に読み切りました。所要時間は2時間半くらいだったと思います。内容については面白さを感じられないテーマも少しありましたが、興味深いものも多くありました。面白かったものについて書いておこうと思います。

 

 

1「仕事で狼となれるかどうか」

 

「一匹狼はいるが一匹羊はいない。」というタイトルで始まるエッセイの中に出てくる言葉です。なぜ狼は一匹で羊は群れるのかということを考え、人間社会に当てはめるという形式で考察が展開されています。仕事は他者に対して何かを与えるということであり、アウトプットなのだから、群れるよりも孤立していた方が価値があるということでした。みんなが憧れるような人気の職業を避け、自分独自の価値を生み出せるような仕事をするべきだということだと思います。

面白そうなので、これを現在の就活市場に当てはめてみます。人気の職業をひと言でまとめることは難しいですが、最近の流れとしてコンサル人気は顕著だと思います。(そもそもプロ野球選手は狼なのかといった定義の問題もありますがつまらないので割愛)多くの学生がコンサルを志望する理由の一つが市場価値の高い人材だと思いますので、その点に関しては森先生の想定よりも就活生の方が一枚上手なのではないでしょうか。ただ、コンサル人気についてのソースは私の友人やよくわからないネットの情報ですので、全国の大学生の平均をとると、森先生の意見がおそらく正しいのでしょう。

 

 

2「みんなが幸せまっしぐらにいきているのだな」

 

これはインタビューで「今一番したいことは?」と聞かれた際に、「インタビューを聞き流すこと」と心の中では思っているものの、答えた時のメリットと答えなかったときのデメリットを比較してそれなりに答えているという流れのなかで登場します。結局はみんな自分の価値判断において良いと思ったことをしているので幸せに向かっているということでした。

これはアドラー心理学的な考え方だと思います。アドラー心理学に関しては『嫌われる勇気』を一度読んだ程度の知識しかないのですが、 すべての責任は自分にあり今に注力することですべての問題は解決されうるというようなものだったと思います。例えば、引きこもりの人はやむを得ず引きこもっているわけではなく、外に出た時のプレッシャーなどを恐れ自発的に引きこもっているというものです。

話はアドラー心理学の方に移りますが、自分にすべて責任があると考えると、すべての問題は自分で解決可能であると考えられます。そう考えると疑似的に悩みが解決したような錯覚に陥るとともに、自分の能力が全ての悩みを解決できるくらい高いものであるとも錯覚することができ、この点が『嫌われる勇気』が流行った理由だと思います。ただ、考え方をいくら変えても行動が変わらなければ、現実は変わらないわけで、行動の改善を行うことの方が何倍も大切だと個人的には思います。(cf.水野敬也『夢をかなえるゾウ』)

 

3「統計を取るだけでは因果関係はわからない」

 

これはそのままの意味です。長く寝れば寝るほど平均寿命は延びるという仮説を立てて、睡眠時間と平均寿命の関係を調べたときに、8時間睡眠が最も平均寿命が長く、8時間以上は逆に縮んだとします。その時に、寝過ぎは健康に悪いと断定するのではなく、何らかの病気にかかっている人は必然的に寝たきりになり睡眠時間が長くなり、かつ寿命が短いという要因を考慮する必要があるということでした。

因果関係については法律学(刑法)だと条件説や相当因果関係説、哲学だとヒュームの懐疑論など議論の分かれるところで、因果関係の把握って難しいんだなと改めて感じた次第です。ただ、それぞれの学問には、刑法なら被害者の救済と適正な処罰、哲学はなら真理の追求のようにある程度の方向性があると思います。その枠組みのなかで因果関係を処理していくことが行われてきたのであり、私たちが日常生活において因果関係を考えるときも目的に応じて調節していけばよいのではないかと思いました。

もっとも、日常生活で因果関係について考える機会はほとんどないでしょうが。

 

では